1.概要
- 吉本のお笑いコンビ「ピース」の又吉直樹が作者。因みに相方の綾部祐二は現在NYで修行中。
- 本作は、第153回芥川龍之介賞受賞作。
- 全体として170ページくらいの短い小説。
- 主人公の徳永(笑いの天才を目指す)と先輩芸人の神谷が交流しながら繰り広げる、笑いと人生の折り合いをつけるための葛藤が、お笑い芸人の著者ならではの視点で描かれています。
2.読みどころ!!
- 本来は、上記のとおり、笑いと人生の折り合いの付け方に関する葛藤がメイントピックなんだとは思いますが、個人的には、徳永がコンビ(スパークス)を解散するときの、『最後の漫才』が本当に秀逸で、しかもガッツリ落涙してしまいました!
- 以下、そのシーンを再現します。
- 徳永「世界の常識を覆すような漫才をやるために、この道に入りました。僕たちが覆せたのは、努力は必ず報われる、という素敵な言葉だけです」
- 相方「あかんがな!」
- 徳永「感傷に流され過ぎて、思っていることを上手く伝えられへん時ってあるやん。だからあえて反対のことを言うと宣言した上で、思っていることと逆のことを全力で言うと、明確に思いが伝わるんちゃうかなと思うねん」
- 相方「お前は最後まで、何をややこしいこと言うとんねん」
- 徳永「まぁやったらわかるわ。いくぞ」
- 徳永「おい、相方。お前はほんまに漫才が上手いな!」
- 相方「おう。いや喜びかけたけど、これ思ってることと反対のこと言うてんねんな」
- 徳永「一切噛まへんし、顔も声もいいし、実家も金持ちやし、最高やな」
- 相方「腹立つわこいつ」
- 徳永「天才!天才!」
- 相方「ど突き回したろか!」
- 徳永「だけどな、相方。そんな天才のお前にも幾つか大きな欠点があるぞ!」
- 相方「なんや」
- 徳永「まず部屋が汚い」
- 相方「しょぼいねん!確かに部屋は綺麗にしている方やけど、もっとあるやろ!」
- 徳永「彼女がブス」
- 相方「いや、嬉しいけど、それ俺のことと違うやん!」
- 徳永「相方が素晴らしい才能の持ち主!」
- 相方「はぁ?」
- 徳永「そんな、素晴らしい才能の天才的な相方に、この十年間、文句ばっかり言うて、全然ついてきてくれへんかったよな!」
- 相方「なに言うてんねん」
- 徳永「そんなお前とやから、この十年間、ほんまに楽しくなかったわ!世界で俺が一番不幸やわ!」
- 徳永「ほんで、客!お前らホンマに賢いな!こんな売れてて将来性のある芸人のライブに、一切金も払わんと連日通いやがって!」
- 徳永「お前ら、ほんまに賢いわ。おかげで、毎日苦痛やったぞ。ボケ!」
- 相方「おい、口悪いな・・・」(相方この時点で号泣)
- 徳永「僕の夢は子供の頃から漫才師じゃなかったんです。絶対に漫才師になんて、ならんとこうと思ってたんです。それがね、中学時代にこの相方と出会ってしまったせいで、漫才師になってもうたんですよ。最悪ですよ!そのせいで、僕は死んだんです。こいつが、僕を殺したようなもんですよ。よっ、人殺し!」
- 徳永「たまにね、僕たちのことを凄い褒めてくれる人がいるんですよ。それが、凄く嬉しくてね。人生を肯定してくれるような喜びを得られるわけですよ。でもね、それに水を差すような奴らがいてね、それが、お前ら!」
- 徳永「お前ら客は、スパークスは最低だ!見たくもねぇ!とか言って僕の人生を否定するわけですよ。ほんまに大嫌い!」
- 徳永「僕たちスパークスは、今日が漫才をする最後ではありません。これからも、毎日皆さんとお会いできると思うと嬉しいです。僕は、この十年を糧に生きません。だから、どうか皆さんも適当に死ね!」
- 徳永「死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!」
- 相方「やかましいわ!」
- 相方「お前な、暴言吐きまくって、お客さんと相方泣かせて、これのどこが漫才やん!漫才というのは、お客さんを笑わさなあかんねん!」
- 徳永「ほんなら、最後の最後に常識を覆す漫才ができたってことやな」
- 相方「やかましいわ!」
- 徳永「お前も、この漫才の最後に言うことないんか?」
- 相方「相方!お客さん!僕は皆さんに全然感謝してません!」
- 徳永「お前、最低な奴やな」
- 相方「いや、俺も反対のこと言うたんや。わかるやろ!」
- 徳永「お前はほんまに漫才が上手いなぁ」
- 相方「もうええわ!」
- この漫才、めちゃくちゃ凄いと思いませんか?僕は読みながら感動で泣きまくってしまいました。
- 更に実際の小説では、こうした会話のやりとりの合間に、主人公・徳永の心の描写が入ります。徳永の「思い」の部分が、読者の心への訴えを更に力強くしています。
- 是非、皆さんにも一度手にとって読んでみたもらいたいです!
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